9月某日、매력をスミンしている時にたまたまおすすめにあがってきたオニュさんの「Blue」のMV。私は思わず家事の手を止めてそれに聴き入る。やはり何度聴いても衝撃を受ける、「VOICE」アルバムの重たいタイトル曲だ。オニュさんが独り心の深淵に立って叫んでいるようなBlueを世に出してから6年後、今この人が最高のチームとともに「FLOW」をひっさげソロアーティストとしてのステップアップの扉をまた一つひらいたことを私は心から嬉しく思い、決して当たり前ではないその軌跡について思案する。
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今回は、オニュさん3rdミニアルバム「FLOW」の全曲レビューを書きます。歌い手として、パフォーマーとして、作詞作曲家として、そして今回はプロデューサーとして!オニュさんの数多くの挑戦がきらきらと輝る作品集への感謝の気持ちを込めて、音楽の素人目線からささやかに贈る言葉です。
↑我が家に届いたFLOW第一弾。Photobook版がいいのはもちろんのこと、トランプ箱みたいなNemo版が予想をはるかに上回る可愛さでテンション爆上がり(左側にちらりと写っているのは2018年のオン眉ジンギさん)
↑木曜日のオニュさんポスター。ようこそ
はじめに
今回オニュさんカムバに際してFLOWに関する素敵な記事がいくつもリリースされ、私もその一部を読みました。どの記事も記者さんのオニュさんに対するあたたかい視線が感じられる文章で、特にインタビュー形式の記事ではオニュさんがプロデューサーとして今回のFLOWに込めたメッセージやこだわりを沢山自分の言葉で語っていて、読みごたえがあり良かったです。各記事にてオニュさんが言っている、FLOWの方向性やメッセージは以下だと理解しました。
- より多くの人に親しんでもらえて、良い影響を与えられる作品
- その上で、自分だけのユニークさ(声)を大切に作った作品
- 今ここにいる自分自身を大切にすること、今という時間を楽しんでほしい
- 今の自分の状況でベストを尽くし自分自身が幸せになること、それにより幸せが周囲の人にも広がっていってほしい、という気持ちを表現したい
このメッセージをかみしめつつ、FLOWの各トラックに散りばめられたオニュさんの創意工夫を探っていきたいと思います。
01.매력 (beat drum)
「えっっまさかオニュさんが!?」な数々の驚きに満ちた衝撃のタイトル曲。MVも大変素晴らしくて先行してレビューを書いたので、今回はそれ以外のところで感想をば。
「魅力」「beat」というキーワードの通り、魅力たっぷりで中毒性のあるリズムと歌詞、それにぴたっと合わせて声を当ててくるようなオニュさんの歌い方がすごい一曲です。例えば「beat」とか「Just a moment」とか「My heart」の「t」の声。「beat」であれば強く打つように(直後の”パァン!”の音とのコンビネーション最高)、「Just a moment」であればさりげなく、「My heart」であれば”ッッ!”と振り絞るように…もちろん、元々その単語が持つ英語としての発音を忠実に再現している部分もありますが、それだけでなく、単語が歌詞の文脈の中で表す意味を声の当て方や質感で表現しているようにも感じました。同じ「t」のはずなのにどれも別物みたいに聴こえる。私は韓国語の発音への解像度が低いので、聴き取れていないだけでその他の韓国語歌詞にも沢山そういう歌声の妙が沢山あるはず。韓国語に詳しいシャヲル様のこの歌への見解を聞いてまわりたいぐらいです。
オニュさんはとあるインタビュー記事にて、매력という曲を通して「『あなたは魅力ある人だ』、『十分にすごい人だ』というメッセージを伝えたかった」というコメントをしていましたが、本当にこの言葉をそっくりそのままオニュさんにおくりたい。もうこの曲を聴いたらオニュさんの魅力以外何も見えなくなりそうだよ。
02.Hola!
今度行われるファンコンサートのタイトルにもなっている「Hola!」を冠する軽やかな曲。日中聴けばその日一日の活力に、夜聴けば明日また夜が明けるのが楽しみになるような明るい一曲です。「流れに乗る」「流れに任せて」と、ずばりFLOWなキーワードがいくつも盛り込まれているのも印象的(この曲とShape of My HeartはFLOWの裏番長的な存在だと思ってる)。この曲の掛け声にもなっている「휘잉 휘잉 다시 휘잉~」が言葉の響きが可愛くて、「ヒューヒューまたヒュー」っていう意味も可愛くて大のお気に入りです。この曲に限らずですが、FLOWの随所に휘적휘적(バタバタ)、보글보글(ブクブク🫧)、꾸벅꾸벅(ウトウト💤)など擬音語擬態語を散りばめてオニュさんが遊んでいる形跡が見られるのが、オノマトペ大好きな人間としてはたまらない。
03.마에스트로
Hola!が風の歌なら마에스트로は海の歌。淡々としたオニュさんの歌声と、それでも気づけばリズムに合わせて揺れたくなるような曲調が癖になる一曲です。海といえば連想するのが2ndミニアルバム「DICE」にてオニュさんが作詞した「In the Whale」。オニュさんの深い内省と、そっと聴き手の手を取って寄り添う様子を感じるこの曲も私大好きなのですが、今回の마에스트로はより自由度高く、力強く聴き手をリードするオニュさんが表現されているようで、この人のステップアップを感じられる素敵な曲だと思いました。
04.Shape of My Heart
冒頭の「네시반」を歌うオニュさんの声に完全に心をつかまれた一曲。なんだこの絹みたいなしっとりした質感の声は…その声に驚いているところに、매력の冒頭にも聴こえてきた心音が少し早いテンポで流れてきて、テンション上がっているはずなのに癒し効果が半端なかったです。実はこの「네시반」部分についてはオニュさんが作詞家のキム・イナさんのラジオに出演した際にも「今回のアルバムの中で自分でも気に入っている声」として挙げていて、どうやらまんまとその思惑にはまったみたい。なお他のシャヲル様が翻訳した内容によると、このラジオ番組でオニュさんは「(声が)見えたらいいな、と思った」という主旨のことも言っていたらしく、それがまるでViewの歌詞でいうところの「소리의 색과 모양 본 것도(音の色と形を見たのも)」みたいでぐっときました。この歌詞はかつてジョンヒョンさんが共感覚を題材に書いたものですが、今回オニュさんがFLOWを通して行おうとしていることの一つは、この共感覚の体現なのかなとも思ったり。多くの人には掴みづらい感覚を、オニュさんは自分の声でもって何とか色や形に近いものとして見せてくれようとしているのかもしれない。実際私は共感覚等の特殊な感覚は全く持たない人間ですが、例えばShape of My Heartを聴けばあたたかい絹みたいな質感を感じるし、後述するFocusを聴けば強烈にまぶしい朝焼けをイメージしたりする。声の色や形を見ることはできなくても、わりとはっきりと何かしらを感じ取ることができた。それもまた、オニュさんのつくる声の力が見せる技なのかと。
「春の日みたいな暖かくて丸い心も、冬みたいに冷たくて角張った心も、どれも僕」という主旨の優しい歌詞も、オニュさんが朝4時半にあれこれ頭をひねりながらそっと言葉を綴っている様子が見えるようで大好きです。聴く人の心をこれ以上ないくらい優しく肯定するような、その声と言葉。
ちなみに매력以外にもAll Day、마에스트로 、Hola!のLive Videoが公開される中、この曲とFocusだけが未公開なのは現場でその目で目撃して魂を抜かれなさいというメッセージだと信じています。楽しみぃ。
05.All Day
5月にこの曲がファンミにて先行公開された時は、「わぁなんて楽しくて素敵なタイトル曲なんだろう♪」と呑気に思っていましたが、さすがのグリフィンさん、そんな単純な戦略ではありませんでした。FLOWを通しで聴くことでAll Dayに「再会」する素敵な演出、更にはAll Dayとの再会に安心しているところにトリのFocusで全てなぎ倒されるところまで計算済みですよね分かります。
매력に負けず劣らず、この曲も言葉が持つ響きを大切にオニュさんが歌っていることが感じられるようで大好きな一曲です。「계속 꾸벅꾸벅 Doze」とか、「 알람 알람 알람 꺼」とかとか!
06.Focus
ここで言うまぶしさは、「強烈な朝焼けを見た時」の感覚に近い、そんな夜明けを感じさせる一曲。最初に聴いた時は何をまぶしく感じているのか分からなかったのですが、Nemo版のアルバムが届いた後に日本語歌詞を参照しながら聴くと、結論その正体は「君の魅力」なのかなと思っています。穏やかなオニュさんのアカペラから始まる曲調とは裏腹に、すごくI’m crazy for you な世界観の歌詞です。後半に向かうにつれて「僕を失っても僕の中心は君」「君に夢中で目覚められない」ていう主旨のことを切々と情熱的に歌ってますからねこの人。オニュペンとしてこの歌詞を読んで曲を聴いた時は膝からへなへな崩れ落ちる感覚にもおそわれました。「私に言ってくれてるうふ♡」的な優しく甘い感覚というよりも、「そうです僕の君に対する気持ちはまさにそれだから!!!!!」という激しい共感。アルバム最後に聴き手の心を何もかもかっさらってなぎ倒す超名曲だと感じました。あぁ、もう夜明けなのになぎ倒されてるね。でもいいまた起き上がって매력を聴くから。大好きだよ。
おわりに
「매력」で中毒症状を起こし、「Hola!」で心が浮かびあがり、「마에스트로 」で海のオーケストラに溺れ、「Shape of My Heart」で包みこまれ、「All Day」で安心し、「Focus」でなすすべもなくその魅力の前に崩れ落ち、夢から醒めないまままた「매력」にはまる…FLOWとはそういう作品です。つまり親しみやすく明るいというコンセプトに忠実でありつつそのすぐ後ろにたいそう深い沼がオイデオイデとしている、名盤ということです。オニュさんの、そしてGRIFFIN Ent.関係者一同の、アルバムの聴き手を「誠心誠意」オニュさんに沼らせようとする本気が感じられる作品だと思いました。もう完敗です大好きこのアルバム。
各曲を聴く中で、オニュさんの歌声が単に良い声であるだけでなく、そのつくり方の絶妙さについて私は何度も感動したのですが、よく考えたらそれはFLOWに限らずこれまでオニュさんがSHINeeとしてソロとして歌ってきたどの曲でも意識的無意識的に行ってきたことだと思います(きっと、以前からその特長に気づいていたシャヲル様が沢山いるはず)。ただ私は「なんていい声なの!」以上の感想までは、今までなかなか気づくことはなかった。今回FLOWのリリースにあたって、オニュさんがいろんなメディアの力を借りてその歌声の独自性や創意工夫について語ってくれたからこそ、音楽の素人の自分でも少し認識することができました。FLOWがこれまでのオニュさんの作品と大きく異なる点の1つは、「オニュさん自身が自分の声を唯一無二の最大の魅力ととらえ、プロデューサーとしてはっきり外向けに発信している」ことではないでしょうか。すべては、より多くの人に自分の音楽の魅力を届けて良い影響の連鎖をつくるために。
最後に、去年の年末に「VOICE」のレビューを書いた時の一節を引用してこの文章を締めくくりたいと思います。
これから先オニュさんが再び歌おうと決めたとして、その心にはどのような欲があるのでしょうか。
それがどのような形であっても、やっぱり私はオニュさんの声を求めずにはいられないと思います。今はっきりしているのは、少なくとも私自身の欲はそういう内容であるということ。
この時はお休みされているオニュさんにどんな意欲があるのか(あるいはないのか)も分からなかったし、ただ祈るように待つことしかできませんでした。だから今、ご本人にとって決して楽ではなかったであろう休業期間を経て、オニュさんが流れのままに沢山の意欲を形にして活き活きとアーティスト活動を行っているのを見れて私は本当に嬉しい。2023年12月の自分に言っておきます。大丈夫、オニュさん意欲満々だから。信じてそのまま待ってな。
より多くの人に自分の音楽を、心を、幸せを届けたい、というオニュさんの願いがこのまま様々な形で叶いますように。私自身も、そんなオニュさんの姿を沢山見届けて盛り上げられますように。そんな私欲たっぷりでこれからも応援していこうと思います。